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【徹底解説】ランチェスター戦略を勉強するなら覚えておくべき3つのポイント

【徹底解説】ランチェスター戦略を勉強するなら覚えておくべき3つのポイント

第1章 弱者の戦略と呼ばれるランチェスター戦略とは何か

ランチェスター戦略とは、戦争における戦闘法則を会社経営に応用した競争・販売戦略です。その起源は、戦争における戦闘理論であるランチェスター法則(第一法則+第二法則)と、それらにゲーム理論を組み合わせた戦略モデル式で成り立っています。

ランチェスター戦略がなぜ長い間、多くの企業に支持されているのか?その一つとして「戦略を立てる上での数値基準を明確にしている」事が挙げられると考えています。例えば、以下の表はランチェスター戦略モデル式により算出された市場占拠率の基準値です。
市場占拠率

(参考:「小さな会社こそがNo.1になるランチェスター経営戦略」 著者:坂上仁志 氏)

この市場占拠率の根拠は、戦争で得られたデータです。膨大なデータを根拠にしているからといって、経営戦略としての目標値として妥当であるとは言い切れませんが、この数字を参考にしている企業が多いという事は、競合対策の参考値としては使えると思います。ランチェスター戦略では様々な数字を扱っていますが、この市場占拠率こそが最も重要な指標となります。

さて、ここまで読んでいただき、ほとんどの人が「自社の市場占拠率なんぞ、わからん。」と思われるでしょう。実際、当社自身もわかりません。小さな会社であればあるほど、市場占拠率という観点でのデータは把握されていない可能性が高いですし、むしろそのデータが「存在しない/意味をなさない」可能性が高いです。

そういった意味では、これからランチェスター戦略を学ぼうとしている多くのマーケターや経営者は、ランチェスター戦略の特徴の一つである「戦略を立てる上での数値基準」という点での恩恵は得られません。

しかしながら、市場占拠率が活用できないからといって、ランチェスター戦略を活用できないというわけでもありません。重要なのは、ランチェスター戦略から算出された数値データ(もしくは方程式)を解釈する事で得られる”戦略の示唆”であり、そこに今日の支持の大きな理由となっていると考えます。

次の章では、ランチェスター戦略の「戦略の示唆」を正しく理解する為に、ランチェスター戦略の基となる「ランチェスター法則(第一法則+第二法則)」について重要なポイントをかいつまんで解説します。

(※本記事では、経営戦略を「ランチェスター戦略」と呼び、戦闘理論を「ランチェスター法則」と呼んでいます。ごっちゃになりやすいので注意してください)

第2章 戦闘理論であるランチェスター法則とは何か

ランチェスター法則は、第一世界大戦時、フレデリック・ランチェスターが発表した戦闘理論です。ランチェスター法則は、戦闘タイプにより第一法則と第二法則に分けられており、ランチェスター戦略では、第一法則を「弱者の戦略」第二法則を「強者の戦略」として、経営戦略に位置づけています。その理由は後述するとして、第一法則と第二法則の違いを解説します。
ランチェスターの歴史

ランチェスター第一法則とは何か

ランチェスター第一法則は、刀や槍等を使った攻撃範囲が1対1を想定した近接戦での戦力理論です。第一法則の理論では、戦力は以下の式で算出されます。

戦力 = 兵力数 × 武器性能

つまり、武器性能が同じであれば、単純に兵力数に依存する戦いであり、逆に兵力数で劣っていても武器性能が高ければ戦えます。

ランチェスター第一法則では、兵力数の勝る敵と戦うと包囲され、一騎打ちができなくなる事から、森や山等の地形の入り組んでいる場所を戦場に選ぶ必要があります。ビジネスで言うならば、ニッチ市場を攻めるべきと解釈されます。

ランチェスター第二法則とは何か

ランチェスター第二法則は、射程距離が長いライフルや機関銃を使い、1人が複数人を相手にできる戦いでの理論です。広域戦、確率戦、遠隔戦の法則等とも呼ばれます。第二法則の理論では、戦力は以下の式で算出されます。

戦力 = 兵力数² × 武器性能

つまり、第一法則と比較して、兵力数がものを言います。武器性能が高くとも、兵力数さえ勝っていたら、そうそう負けないという結論になります。

ランチェスター第二法則では、兵力差を最大限に活かす為、見通しがよい平地での戦闘を推奨されます。これはビジネスで言うならば、広域でのビジネス展開と解釈されます。
これがランチェスター法則の第一法則と第二法則の要点です。

次の章では、今まで解説したランチェスター第一法則、第二法則と、ランチェスター戦略モデル式(市場占拠率)から得られる「戦略の示唆」を解説します。
ランチェスター戦略まとめ

第3章 ランチェスター戦略を勉強するなら覚えておくべき3つのポイント

では、ランチェスター戦略では、以上の事を踏まえて、どのような経営戦略の示唆をしているのか、重要のポイントを3つまとめます。

1:市場を細分化し、小さなNo1を積み上げる。

弱者は兵力に劣る場合、強者と第二法則で戦うと惨敗する為、なるべく近接戦に持ち込む事が重要です。例えば不動産会社なら、全国展開するより、地域密着から、その地域No1を拡大しながら、全国の市場シェアを広げる事になります。

細分化すべき市場の区分はいくつかありますが、代表的な区分は以下の3つになります。

  • 商品・・・用途別、価格別、サイズ別、ネーミング等々
  • 地域・・・山川海、鉄道、国道、都道府県、市区町村
  • 客層・・・性別、年齢、収入、好み等々

2:目標範囲を狭め、一点に集中する。

市場を細分化しても、商品点数が多く、様々な業種に手を出す事は、弱者、強者ともに、ランチェスター戦略では愚策となります。営業力の分散は、戦力を著しく低下させる事は、第二法則から明らかです。例えば、10の力を一点に集中すると、102で100になるものが、5と5で分散させると、会社全体の戦力は52 +52=50で半分になります。それぞれの商品が中途半端な状態で営業力を分散させるより、経営資源を一点に集中し、そこでNo1を獲得してから拡大をする事が重要になります。

3:強い競合は競争目標にし、弱い競合を攻撃目標にする。

会社の力関係は第二法則の理論から2乗比になります。勇猛果敢に強者に挑むと、目に見えた営業力以上の差で惨敗します。自分より営業力の劣る会社を攻撃目標にする事が重要になります。ちなみに攻撃目標にすべき会社の特徴は以下3つであると言われています。

  • ・社長の朝が遅く本業に身を入れていない会社
  • ・社長が公職や名誉職に力を入れて外出が多い会社
  • ・本業以外にいくつもの事業に手を出し、何が本業だかわけが解らなくなっている会社

このような会社は、お客に対するサービスがきちんとできていない可能性がある為、正攻法で営業すると注文がもらえる。

(「早解りランチェスター法則」著者:竹田陽一 から抜粋)

上記3つのポイントが、弱者が抑えるべき最低限の戦略になります。
いかがでしょう。経営戦略の示唆は何か得られましたでしょうか。
これがランチェスター戦略の全てではありませんが、根本となる重要な考えなので是非覚えてください。

第4章 強者がとるべきランチェスター戦略の3つのポイント

では、強者が弱者に逆転されないように取るべき、ランチェスター戦略はどのようなポイントがあるのか解説します。
前述した通り、強者はランチェスター第二法則を基本として弱者と戦う事になります。
第二法則では兵力数が勝敗を大きく左右するので、これを活かしたミート作戦が、強者の基本戦略となります。
ミート作戦とは弱者が武器性能(サービスの差別化)で勝負した際に、強者はそれを真似するか追従する事で武器性能の差を0として、圧倒的な兵力差で弱者に対抗する戦略です。このミート作戦が遅れると、差別化により弱者のシェアが拡大し打撃を受ける事になりうるので、強者は早い段階で弱者の差別化の対策を取り、数で潰す戦略が有効とされています。
では以上を踏まえて、ランチェスター第二法則を活かした強者の戦略のポイントを以下にまとめます。

1:市場規模が大きい地域や商品に力を入れる

強者は量を有効活用すべきなので、大衆を相手にし、大量商品の出荷を行い、弱者に追従させない事が重要となります。
その為には販売先を多く持つ卸会社との提携を重視し、面を取りに行く事も重要になります。

2:強者は弱者を包囲する

弱者の進出を未然に防ぐ為、近い業種を抑えにかかります。例えば資金力を活かしたM&Aは強者の有効な戦略となります。

3:総合1位を目指す

強者であれど、基本は一点集中主義なので、まず一つの商品で1位を取り、次にその商品に近い商品で1位になり、やがて全体で1位になるようにします。

(「早解りランチェスター法則」著者:竹田陽一 から抜粋)

以上がランチェスター戦略の強者の基本戦略になります。まとめると、数の理を活かして、面を取りに行き、弱者の差別化戦略にはミート作戦で早い段階で数で押し潰す事が重要になります。

第5章 ランチェスター戦略を活かした事例3選

地域で差別化を図り、規模の拡大に成功した美容室

弱者の戦略の基本は、徹底的な市場の細分化による差別化戦略です。細分化された市場で次々と一位を取る事で、市場規模を拡大し強者に挑む事が重要となります。美容室の「QBハウス」は、そんなランチェスター戦略を愚直に行って成功した好事例です。
この美容室のターゲットは「ちょっと身だしなみを整えるぐらいの気軽で、且つ手間がかからないカットを望んでいるユーザー」であると推察されます。そのターゲットを獲得する為に、駅構内に店舗を展開し拡大していきました。
この美容室が非常に巧みな事は、

  • ターゲットの盲点
  • ターゲット獲得の為のニッチ市場

美容室とは、おしゃれに気を遣う為に行く場所であるから、手間暇かける事は重要な要素と思われますが、この美容室は「身だしなみさえ整えられればよい」つまり、時間重視なユーザーに目を付けた事が非常に巧みでした。さらに、そんなユーザーにアプローチする地域として、駅構内という、美容業界の常識を覆えす立地戦略を行います。つまり立ち食いそばの美容室バージョンです。さらに巧みなのは、人路線を抑えると、次々に地域拡大ができる事にあります。結果、業界で一躍存在感を出す企業となりました。
以下の動画で、QBハウスのキャッチフレーズに焦点をあてて、その差別化戦略の巧みさを解説しています。是非ご覧ください。
【ランチェスター戦略 事例】差別化 USP カットに特化した美容室

レスリング伊調選手もランチェスター戦略でNo.1

企業の事例とは異なりますが、ランチェスター戦略に通じる興味深い事例なので、紹介させていただきます。
ランチェスター戦略の重要なポイントとして、「強い競合は競争目標にし、弱い競合を攻撃目標にする。」があります。伊調選手はまさに、それに則り成功を収める事になります。(結果論的に、ランチェスター戦略の理論が活かされているという意味です)
伊調選手が開花したターニングポイントは「それまで戦っていた階級を変えた」時と言われています。それまで戦ってきた階級には吉田沙保里選手がいました。強者を避け、結果9度の世界王者になります。「勝ちやすくに勝つ」というランチェスター戦略の教えに一致する戦略と言えます。
【3分でランチェスター戦略の事例】 レスリング伊調選手もランチェスター戦略でNo.1

大人のアイスを開拓したハーゲンダッツの事例

最後に個人的に好きなハーゲンダッツの事例を紹介します。(個人的に・・・)

ハーゲンダッツは海外ブランドながら、1984年に日本に上陸した以降、日本のアイス業界を瞬く間に席巻します。

当時の日本の「アイスクリーム=子供のお菓子」という常識を変え、大人のアイスクリームというブランディングで成功します。

ブランド浸透の為に、流行が生まれやすい首都圏且つ高級店にのみ販売する等、ランチェスター戦略の市場の細分化を行いシェアを拡大していきます。

ハーゲンダッツが行ったその他の戦略を以下のページで説明していますので、是非ご覧ください。
【3分でランチェスター戦略の事例】ターゲットに対する差別化②(ハーゲンダッツ編)

第6章 まとめ

ランチェスター戦略は、強者も弱者も、共に一点集中し、拡大して、徐々にシェアを伸ばしナンバーワンになる事が重要です。弱者は特に、強者がカバーできない細分化された市場から攻めていくべきであり、強者はそれをミートしていく事がポイントとなります。

ランチェスター戦略は非常に奥が深い戦略理論です。是非この機会に理解を深めていただければと思います。一方、理論を学ぶ事に加えていく事が重要になります。ほぼ全ての企業が参考にできる戦略理論です。是非この機会に理解を深め、実践していただければと思います。

最後に、実践で重要なのは理論を知る事に加え、様々な事例を知る事にあると考えます。理論も含めて体系的にランチェスター戦略を学びたい方は、当社が主催する『戦略★社長塾』を検討ください。

『戦略★社長塾』とは、ランチェスター戦略の立役者であり経営コンサルタントの竹田陽一先生が開発した経営戦略教材(DVD&テキスト)を使った少人数制の寺子屋式勉強会です。

この勉強会は、小規模事業者に焦点をあてており、これまでに約10,000人の経営者が参加してきております。即実践に活用しやすい事からも有意義な勉強です。以下のページで勉強会の詳細を紹介しておりますので、ご検討いただければと思います。

ランチェスター戦略の立役者である竹田陽一先生

この記事を書いた人

山野 勉(Tsutomu Yamano)

(胃腸が弱いけど、牛乳が好き!)

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